甲状腺疾患・糖尿病専門 笠原クリニック

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2022.11.04 お知らせ

第65回日本甲状腺学会 学会報告 1

今回の甲状腺学会では、特別シンポジウムや招請講演(Bianco教授、シカゴ大学)において脱ヨウ素酵素によるT3、T4の調整がひとつのテーマでした。脱ヨウ素酵素の働きによって各臓器における甲状腺ホルモンであるT3とT4のバランスが調整されます。当院においては甲状腺全摘後患者さんを主な対象として活性型の甲状腺ホルモンであるFT3の正常化を目標とした治療を行っています。現在の甲状腺ホルモン補充療法はT4製剤であるチラーヂンSが使用されます。T4のみを投与しても脱ヨウ素酵素の働きによってT4からT3に変換することでT3がある程度は産生されます。しかし本来T3の80%がT4から産生されますが残り20%は甲状腺から直接分泌されます。T4のみの投与であってもT3がある程度産生されるものの少し低くなる(T3/T4比が低くなる)ことが知られています。これはこの20年ほどの時間をかけて徐々に世界的に知られるようになってきた知識です。活性型ホルモンであるT3が低いことは疲れやすさや寒がりといった症状に関連します。これは近年の国内外の内分泌関連学会で取り上げられる課題です。それではT3製剤であるチロナミンという製剤を併用すればよいと思われるかもしれませんがこちらは半減期が極めて短く頻回分割投与が必要です。そこで隈病院において甲状腺全摘術を受けられた方において、術後はT4製剤(チラーヂンS)を少し多めに内服することでT3を正常(同一患者における術前と同等の値)に維持する治療が行われるようになりました。全摘後ではTSHを軽度抑制に維持することでFT3は術前と同等、FT4は一般に用いられる基準範囲と比較してやや高めとなります。癌の術後においてはTSHを少し低めに維持することは再発の抑制にもつながるとされています。今回の招請講演においてシカゴ大学のBianco教授は、TSH正常を目標とした一般的なT4製剤単独治療においては倦怠感等の症状が十分改善しない患者さんが一定数みられること、多くの医師は患者さんが倦怠感や寒がりを訴えてもTSHが基準範囲内であれば甲状腺のせいではないと考えること、T3の少量分割併用療法におけるデータなどを提示されました。またT4製剤単独治療でも甲状腺全摘後の患者さんに対して投与量を調整することでT3が正常に維持できることを隈病院より報告していますが、その点にも言及し甲状腺体積がT3・T4のバランスに影響を与えることについて同意されていました。将来的にはT3製剤の弱点である半減期の短さを解決するためにT3徐放剤などが特に良性疾患の甲状腺全摘後において治療法の選択肢となっていくかもしれません。
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